賃貸住宅を利用する場合には、前提として知って置かなければならないことが幾つかあります。知っていない場合、利用者側が不利になってしまったり、余計な負担をしなければならない可能性があるためです。ここでは、その一つとして「原状回復」について紹介します。

◆原状回復の意味

それではまず始めに、原状回復がどのような意味を持つものなのかについて紹介します。原状回復というのは、賃貸住宅を退去する際に発生する借主側の義務となっています。

名前の通り「借りる前の状態に戻す」ということが義務となっています。この原状回復義務の内容については、賃貸住宅の契約時に契約書の内容として含まれているものであるため、契約を考えている方は必ず細かい部分まで契約書を読み、原状回復義務がどのように規定されているのかを把握しておく必要があります。

ただし、この原状回復の基本となっているのは上記の通り「借りる前の状態に戻す」ことですが、これはいかなる変化があった場合でも最初の状態に戻さなければならないというわけではありません。場合によっては原状回復義務に含まれない部分も存在しているため、その部分を知っておくと無駄に原状回復を行わないで済みます。

◆原状回復義務の範囲

それでは、原状回復義務について、借主側が背負うことになる範囲がどの程度であるのかについて紹介します。ここで基準となっているのは、平成10年に建設省によって設定された原状回復に関するガイドラインと、それに基づいて改定された平成16年のガイドラインです。このガイドラインの内容によって、借主側が行うべき原状回復の内容がどの程度の範囲になっているのかを知ることができます。

原状回復義務の範囲について、ガイドラインにおいては「建築物の通常損耗分を元の状態に回復すること」ではなく「貸借人の故意・過失などによる劣化の回復」を意味しているとしています。つまり、例えば時間によって自然と劣化してしまった分については借主側が責任を取る必要がないということです。

例えば日差しがあたる部分の壁紙が日焼けして色が変わってしまった、というような劣化は「通常損耗分」に含まれることが考えられるため、借り主としての責任の範疇には含まれていないということです。

◆借主に生じる善管注意義務

上記の内容だけをみると、原状回復義務に関しては借主側がかなり強い立場にあり、貸す側にとっては不利になっているように思われがちですが、必ずしもそのような内容となっているわけではありません。

借主側には善管注意義務という義務が課せられています。これは民法400条で設定されているものであり、建物の貸借に関しては借主側が社会通念上必要であるとされる程度の注意を払って使用する必要がある、としています。

この中には日常的に清掃を行うことや、極力劣化が起こらないように注意することが含まれているため、ゴミを片付けなかったことによって発生した劣化などについては通常損耗分に含まれるとは考えにくいといえます。

◆退去時に発生するトラブル

さて、ここまで紹介してきた原状回復に関する内容ですが、これほどまでに注意を促しているのには大きな理由があります。 そもそも平成10年のガイドラインが設定された事自体が、「退去時の原状回復に関するトラブル」が多く発生していることが理由でした。二度にわたるガイドラインが示されているにも関わらず、現在に於いても原状回復を巡るトラブルが発生する可能性が十分にあります。

特に多いのが、敷金の返還に関するトラブルです。敷金というのは賃貸住宅に入居する場合に初期費用として支払っているお金の1つであり、原状回復のために必要となる費用のために用いられることが目的となっている費用です。 その為、もし退去時に借り主の責任の範囲内において原状回復が行われている場合、家主はこの敷金を返還する必要があります。

しかし、借主側がこれを理解していなかったり、貸主側が上手く言うことによってトラブルに発展してしまう可能性があります。

賃貸住宅の利用を検討する場合には、退去時の事も考えて原状回復に関する規定がどのようになっているのかを確認しておかなければなりません。トラブルを避けるためにはある程度、現状回復について知っておくのも良いでしょう。