一戸建ての建築や土地探しを進める中で、「セットバック」という専門用語に出くわすことがあります。一見すると難しそうな言葉ですが、正しく理解せずにセットバックが必要な土地を購入してしまうと、思い描いていた住まいづくりに思わぬ制約が生じることも。

本記事では、セットバックとは何かという基本的な考え方から、費用負担・必要な距離・購入時の注意点まで、押さえておきたい情報をわかりやすく解説します。

これから土地の購入や新築・建て替えを検討している方は、トラブルを未然に防ぐためにも、ぜひ参考にしてください。

セットバックとは?道路との距離に関わる建築ルール

セットバックとは、建物を建てる際に、土地の一部を道路側に“後退”させて建築ラインを確保することを指します。これは、道路の幅が建築基準法で定められた基準に満たない場合に必要となる措置です。

建築基準法では、住宅の敷地は幅4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければならないという「接道義務」が定められています。この規定は、万一の災害時に緊急車両が通行できるようにするために設けられたものです。

ただし、4メートル未満の道路でも、一定の基準を満たしていれば「2項道路(みなし道路)」として扱われ、法的に道路と認められることがあります。その場合、新築や建て替えを行うときには、敷地の境界線を後退させて実質的な道路幅を4メートルに拡げる必要があるのです。

なお、すでに建っている建物についてはセットバックの義務はありませんが、建て替え時にはこの後退が必須となるため、土地購入やプランニングの段階での確認が不可欠です。

セットバックにかかる費用とその負担

セットバックを行う際には、ただ土地を後退させるだけでは済まず、さまざまな付帯費用が発生します。一般的には30万円〜80万円前後が目安となりますが、状況に応じて金額は大きく変動します。

主な費用には以下のようなものがあります。

測量費用:土地の境界を明確にするために「現況測量」や「境界確定測量」を実施。特に後者は、隣地の所有者と境界について合意を取る必要があり、時間と費用がかかる場合があります。

解体・撤去費用:ブロック塀、門扉、植栽など、後退エリアにある構造物を解体・撤去する費用。

整備・舗装費:セットバック部分を道路として使えるよう、アスファルト舗装や整地を行うための費用。

費用の原則は所有者負担だが自治体の制度で負担軽減できることも

セットバックに関連する費用は、原則としてその土地を所有している方が負担することになります。測量や構造物の撤去、舗装工事などが必要となれば、所有者自身がその費用を用意するのが基本的なルールです。

ただし、すべてを自己負担しなければならないわけではありません。自治体によっては、負担を軽減するための補助金制度や助成プログラムを設けている場合があります。

セットバック部分の土地はどう扱う?購入前に知っておきたい2つの選択肢

セットバックが必要な土地を購入する際は、その後退部分も含めて土地全体を取得することになります。しかし、建築時にはその部分を道路として使える状態に整備しなければならないため、すでに塀や門などの構造物がある場合は撤去が必要になるケースもあります。

購入前に現地と図面をしっかり確認し、どの程度のスペースがセットバック対象となるのか把握しておくことが重要です。

セットバック部分の土地は、次のような2つの方法で取り扱うのが一般的です。

① 自治体に寄付する(公道化)

もっともよく選ばれているのが、後退した土地を自治体に無償で引き渡す方法です。この場合、後退部分は正式に「道路」として扱われるようになり、将来的な管理や維持は自治体が担います。ただし、寄付にあたっては次のような手続きが必要です。

境界確定測量:隣地所有者との立ち会いが必要な場合もあります

分筆登記:既存の土地からセットバック部分を分けて登記する必要があります

これらの費用に対して補助制度を設けている自治体もあるため、購入前に市区町村の担当窓口で確認しておくと安心です。

② 所有権を残して私道扱いにする

もう一つの選択肢が、セットバック部分の土地の所有権を維持しつつ、道路として管理する方法です。この場合、土地はあくまで所有者のものですが、通行のための空間として使用されるため、駐車スペースや植栽の設置などはできません。

私道として管理するには、以下のような負担も考慮が必要です。

  • ・雨水よる舗装の劣化や清掃など、維持管理コストは基本的に所有者負担
  • ・将来的な相続や売却時にも、特殊な取り扱いとなる可能性がある

そのため、特別な理由がない限りは「自治体への寄付」が選ばれるケースが多いといえます。

セットバックの幅はどうやって決まる?道路の向かい側によって異なるパターン

セットバックで後退させる距離は、道路の反対側の状況によって変わります。必要な後退距離は一律ではなく、敷地の立地条件によって調整されるため、具体的なパターンを理解しておくことが大切です。

以下に、代表的な3つのケースをご紹介します。

パターン① 向かい側にも建物が建っている場合

このケースでは、道路の中心線を基準にして、両側の敷地がそれぞれ2メートルずつ後退するのが基本です。

たとえば現在の道路幅が2メートルしかない場合は、自分の敷地を1メートル、向かい側の敷地も1メートル下げることで、合計4メートルの幅を確保するかたちになります。

パターン② 向かい側がすでにセットバック済みの場合

道路の反対側がすでに必要な後退措置を済ませている土地である場合、自分の敷地側だけがセットバックの対象となります。この場合は、道路の中心線から2メートル下がるだけで要件を満たすことになります。

ただし、見た目だけでは判断しにくいこともあるため、必ず自治体の建築指導課や道路管理課に問い合わせて、向かい側のセットバック状況を確認するようにしましょう。

パターン③ 向かい側が崖・川・海岸などの場合

道路の反対側が自然地形(崖や海、川など)で後退が不可能なエリアの場合、必要な道路幅をすべて自分の敷地側で確保する必要があります。

たとえば、既存の道路幅が2メートルであれば、自分の土地を2メートル分後退させて4メートルの道路幅を確保する形になります。

このようなケースでは、想定より大きなセットバックが必要になることがあるため、購入前の事前確認はとても重要です。

セットバック部分の固定資産税は非課税にできる|申告手続きを忘れずに

セットバックで後退した部分の土地は、実際には道路として利用されるため、一定の手続きを行えば固定資産税や都市計画税の課税対象から外すことが可能です。

ただし、これは自動的に非課税になるわけではありません。土地の所有者が自治体に対して所定の申告を行うことで、はじめて非課税扱いが適用されます。

とくに地価の高い都市部では、申告を怠ると数万円〜数十万円単位の税負担が継続する可能性もあるため、注意が必要です。

非課税申告のために必要な書類

申告時に必要となる主な書類は以下の通りです。

  • ・土地の登記事項証明書(謄本)
  • ・セットバック部分の面積が確認できる地積測量図
  • ・その他、自治体が指定する書類(要確認)

これらの書類を整えたうえで、各自治体の資産税課・建築指導課・道路管理課など、該当する窓口に申請を行います。

セットバック部分を非課税にすることで、土地の維持コストを大きく抑えることができるため、購入を検討する段階からこの手続きを把握しておくと安心です。

まとめ|セットバックを理解して、後悔のない土地選びを

この記事では、セットバックの概要から必要な費用、土地の取り扱い、手続きに至るまで、土地購入前に知っておくべきポイントを解説しました。

セットバックを理解しないまま土地を取得してしまうと、

  • ・思っていたより建てられる面積が狭くなる
  • ・不要な撤去工事や測量が発生する
  • ・手続きの漏れで税金の負担が増える

といった想定外のトラブルが起こる可能性があります。

一方で、セットバックが必要な土地は相場よりも割安なことも多く、制度や手続きを正しく理解したうえで進めれば、お得に土地を取得しつつ、安全で快適な住環境を手に入れることも可能です。

「セットバックのある土地を購入しても大丈夫?」
「非課税申請や測量ってどう進めればいいの?」

そんな不安や疑問がある方は、ぜひ弊社までお気軽にご相談ください。土地選びから購入後の手続き、建築計画まで、ワンストップでしっかりサポートいたします。